#004 ジム・スモール氏 「アメリカと草野球」
- WEBアルバイトスタッフ
- 2018年11月5日
- 読了時間: 9分


「軟式ボールの可能性」

編集長
日本では草野球が盛んに行われていますが、アメリカにも草野球はあるのでしょうか?
ジム・スモール氏
私自身も日本では草野球プレーヤーなので、草野球については分かっているつもりです。駐在している外国人グループで草野球チームを作っていますが、他の草野球チームのようなユニフォームもないですし、リラックスした雰囲気でやっています。ユニフォームを作ってしっかりやった方がいいのかもしれませんが、この緩い感じがマーケティングのアイディアにもなるので、今はリラックスした感じのプレーを楽しんでいます。ですので、今からお話しする話は、MLB(メジャーリーグベースボール)の一員というプロフェッショナルな視点と、草野球プレーヤーというパーソナルな視点からお話したいと思います。
まずパーソナルな話からですが、アメリカ人の大人で硬式をする人は非常に少ないです。フラスコをイメージしていただきたいのですが、だいたいフラスコの下の部分が小学生、12~13歳で、ここから先がとても細くなってしまい、よほど上手くない人でない限り中学、高校、大学ではプレーはしません。 一方、硬式野球の変わりに非常に盛んに行われているのが、ソフトボールです。多くのアメリカ人は、大人になると野球からソフトボールに切り替えます。ニューヨークの夏の夜は、多くのチームがセントラルパークでソフトボールをしています。大抵は友達同士でやったり、会社の有志でチームを作っていたりするので、ソフトボールと軟式ボールの違いはありますが、アメリカも日本もそういった意味では非常に似ていると思います。
私自身、日本では軟式ボールとソフトボールの両方でプレーしていますが、軟式野球の方が野球により近いので、個人的にはソフトボールよりも軟式野球の方が好きです。ですので、アメリカでソフトボールを軟式ボールに代わるものとして普及させたら、マーケティングのチャンスはかなりあると思います。(笑)
次に、野球を仕事としている者(プロフェッショナル)の意見ですが、私は軟式ボールにすごく可能性があると思っています。野球後進国、例えば中国やアフリカ、ヨーロッパではその軟式ボールを使っています。理由は二つあり、一つ目は耐久性の問題。あまり整備されていない球場で雨が降った場合、硬式ボールはすぐに傷んでしまいますが、軟式ボールはほぼ永久的に使えます。二つ目は、これが主な理由となりますが安全性の問題。軟式ボールの初心者への安全性は、素晴らしいものがあると思います。軟式ボールでも打球が当たれば痛いことは痛いですが、大怪我をするほどの怪我にはなりません。硬式ボールの場合、それが致命傷にはならなくとも、本人が野球に恐怖心を抱いたり、親が安全性を懸念してしまうほどの怪我をしてしまうことがあります。ですので、軟式ボールの持つ可能性は素晴らしいものがあると感じています。

編集長
アメリカにはなぜ軟式野球がないのでしょうか?
ジム・スモール氏
硬式をやっている人が軟式を蔑んでいるというか、「軟式は本当の野球の野球じゃない」といった傾向があるからだと思います。私は硬式だ、軟式なんかやらないぞ、と。日本の硬式野球プレーヤーの中にもそう言っている人がいると思いますし、アメリカにもいます。
しかし、本当に上のレベルでプレーしているプレーヤーならともかく、たいていの場合は硬式でも軟式でもさほど変わらないと思います。同じスイングをしていればファールボールはファールボール。ちょっと方向が変わったりというようなことはありますが、芯で打たなければファールになるというのは硬式でも軟式でも同じことです。よほど上手な選手でない限り、硬式と軟式の間に技術の差はないと思います。
日本で軟式ボールが普及した理由の一つには、環境もあるのではないでしょうか。日本では住宅街に野球場がありますので、ネットが張ってあるとはいえ様々な危険性がある。そういった環境の中で、硬式ボールを使うか、軟式ボールを使うかの選択を迫られたときに、軟式ボールがより普及していったという背景があるのではないかと思います。
大人はソフトボールをするという習慣がアメリカには長くありますので、軟式野球を普及させる取り組みをすれば必ず普及すると思います。今アメリカでソフトボールをしている人は、元々硬式野球をしていた人たちです。今でもメジャーリーグやマイナーリーグを見続けている人です。大人になっても、野球選手になりたいという夢はなかなか忘れられるものではありません。ユニフォームを着て軟式野球をすれば、たとえ40代であろうと、プロ野球と同じような気分を味わえるのではないかと思います。
草野球チームの皆さんが来ているユニフォームは、日本やアメリカのプロ野球チームにかなり類似させたものを着ていらっしゃいます。昨日自転車で家に帰る途中に野球場の脇を通ったのですが、一つのチームはホークスのカラー、もう一つはニューヨーク・メッツのカラーでした。つまりは、誰もが夢を見たいということなんですね。現実の世界では、仕事や家庭など大変な現実に直面しているわけですが、憧れのチームのユニフォームを着て、野球に熱中することによって、ストレスを発散したり、夢を見られるのではないでしょうか。
「大人向けの野球イベント 」

編集長
先日、元巨人軍の槙原さんに協力をいただいて、草野球オンラインで大人のための野球教室を開催しました。参加者の目が子供のように輝いていて、野球が好きなんだなとすごく感じました。アメリカではMLB(機構)、やチームが子供向けの野球教室を多くやっているようですが、大人向けのイベント、特にプレーがからむようなイベントについてどう考えていますか?
ジム・スモール氏
アメリカには、大人になっても硬式野球をやり続ける人が少しだけいます。硬式野球をやっている大人がいることに、MLBやチームも20数年前に気づいた。夢を生きたいんだろうな、夢を見たいんだろうな、ということに気づいたんです。ですので、20数年前から多くのチームが “Fantasy Camp” (ファンタジーキャンプ)というイベントを行っています。多くのチームで実施されていて、参加者は高額の費用を払って、Spring Training(スプリングトレーニング)のキャンプに参加します。ロッカールームには自分の名前が書いてあるロッカーが用意されていて、ユニフォームも渡され、4~5日間かなり徹底的に野球のトレーニングを受けるというものです。
球団によっては大人の女性を対象にしたクリニックをやっているところもあります。アメリカの家庭では週末になにをするのか、という判断を母親がします。我が家もそのケースです(笑)。ですので、判断をする女性たちに野球は面白いもので、安全なものであるというような良いイメージを体感してもらうことが重要であることに気づきました。荒木さんがおっしゃった、大人たちを対象にして、感動を味わってもらうという取り組みがアメリカでも重要になっています。
「メジャースタイル」

編集長
草野球オンラインでは、その夢、感動を味わってもらう一つの手段としてMLBで採用されているユニフォームを草野球でも楽しめるように、マジェスティック社、ニューエラ社と組み、国内で初めて草野球プレーヤー向けにユニフォームとキャップをメジャースタイルで展開し始めたんです。
ジム・スモール氏
MLBとつながっているという気持ちを味わってもらえることは素晴らしいことです。スーパーマンがマントをかぶった時と同じように、MLBのユニフォームを着ると本当の選手になった気分が味わえます。アメリカの友人たちも小さい頃、ユニフォームを買ってもらうと更衣室や自分の部屋でプロの選手っぽいポーズをきめて、鏡の前で「なかなかいけてるんじゃん?」ってやったと思うんです。誰かに見られるとかなり恥ずかしいので、ドアをしっかり締めてね。その気持は大人になっても変わらないと思うので、キチッとしたユニフォームを手に入れられるというのは良い取り組みだと思います。 時にマジェスティックのユニフォーム、ニューエラのキャップは、選手たちがフィールドで着られる唯一のブランドです。なぜこの2つのブランドがフィールドで着られる唯一のブランドかというと、MLBの指定するクオリティや様々な規定を満たし、ベストな商品を提供できる企業だからです。本物だということです。
編集長
アメリカにはメジャーの球場、マイナーの球場、良い球場がたくさんある。将来はそこで、日本の草野球人がマジェスティックのユニフォームを着て、ニューエラのキャップをかぶって、軟式ボールで野球をやりたい。
ジム・スモール氏
草野球をメジャーリーグ、マイナーリーグのフィールドでやるというのは良いアイディアですし、できることです。例えば、多くはメジャーリーグのスポンサー対象ではありますが、チームがロードで出ている時に、スポンサー企業の方にフィールドでプレーをする機会を提供しています。ロッカールームに行くと、皆さんのホームとビジターのユニフォームがかかっていて、実際フィールドでプレーができる。もちろんスポンサー様を対象とした、日頃お金を払ってくれてありがとう、というものではありますが、そういったことは可能なことだとは思います。
編集長
アメリカではソフトボールがメジャーなスポーツですが、MLBがソフトボールコミュニティに対して直接関わっていることはあるのでしょうか?
ジム・スモール氏
チームは関係を持っているかもしれません。MLBとしては女性のプロソフトボールリーグをかなり長い間サポートしてきました。これは草野球的なレクリエーションではなく、かなり真剣なプロのソフトボールです。ウィッフルボール(Wiffle Ball)といってプラスティックの穴があいたボールを使用しますが、多くのチームがそのウィッフルボールリーグというのをサポートしています。
編集長
埼玉西武ライオンズは数年前からサラリーマンノックという企画を始めました。試合終了後、スーツのままグラウンドに降りて西武のコーチから直接ノックを受けられるというものですが、いまや大人気の名物イベントになっています。それくらい日本人の大人は野球が好きで、プロと同じフィールドに立ちたいという夢は何歳になっても持っているんです。
ジム・スモール氏
Amazing! (アメージング) それはすごいですね。
編集長
個人的には軟式ボールをアメリカで流行らせたくなってきました。
ジム・スモール氏
アイディアは僕が発案ということで、ぜひ一緒にやりましょう(笑)。 草野球オンラインが今後どうなっていくのかを非常に楽しみにしていますし、私たちとしてもなんらかの形で関わりたいと思います。

ジム・スモール氏(写真:右)と草野球オンライン編集長(写真:左)
インタビュー/荒木重雄(編集長) 写真/福田清志
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