top of page

2011年スペシャルインタビュー【桑田真澄氏】:第三回「常識を疑う」ことで得た理論。


この記事は2011.02.14にteams前身サイト草野球オンラインのに掲載されたものを再掲載しております

第三回:「常識を疑う」ことで得た理論。



編集長

桑田さんの投球理論についてお聞きします。

桑田氏

投球の際、「上から下に倒れるように」と教わった方が多いと思います。でも、僕はそうじゃないと思うんです。

例えば、プロ野球選手はみんな、小学校、中学校とだいたいエースで4番が多いですよね。 それが、高校、大学、プロにいくにつれ、ほとんどの選手が野手に転向してしまう。

そこには2つの大きな原因があると思っています。

1つ目は、ケガですね。多くの選手はケガがキッカケで野手転向を余儀なくされる。成長期に量を追い求める練習で無理をしてしまい、結果、ひじや肩などを壊してしまう。投げ方の問題もあると思いますが、多くはオーバーユーズが原因でケガをしています。

そして2つ目は、「マウンドとの相性」なんです。つまり投球フォームの指導方法に問題があるんだと思っています。イメージしてみて下さい。マウンドには傾斜があります。ピッチャーが投げる時は、マウンドの頂上から下り坂のようになっていますよね。傾斜になっているところで、人がまっすぐ立とうとすると自然と重心を(傾斜とは逆側)斜めにかけてバランスを保とうとします。 でも、投球フォームではマウンドの傾斜に平行にとか垂直にして、投げる方向に向かい肩を上から振り下ろせと教わる。

実際にこの場でやってみてください。

さらに、これに傾斜が加わると上手く力をかけられず、すごく投げづらく感じると思います。

投球フォームが横投げの場合はいいんですが、オーバースローの場合は体をスムーズに移動させる必要があるのに、投げる方の肩をあげるとバランスが崩れるんです。


肩を落とすフォームは大きく3つに分かれます。

1つ目は、僕や岡島秀樹さん、野茂英雄さん、村田兆治さんなどのようにテークバックに入る前に(後ろ側の)肩を落としてから体重移動をするフォームです。 2つ目はまっすぐ立ちながら体重移動中に一度肩を落とすパターン。これは例えば松坂大輔選手などがそれにあたります。 最後は、体重移動が終わる間際に一度肩を落とすパターン。例えば、メジャーの選手などは前へ前へ、高い所から倒れ落ちるようにかぶせにいっているように見えるのですが、実はスローでよく見ると足が着地する瞬間に左腕を一瞬上げて、逆の右肩を下げているんです。そしてリリースにかけてボールが頭で隠れて、、いきなりボールが出てくるように見えるので130キロ台でも打てない。

去年もボストンでレッドソックスの試合を観戦しましたが、ベケット、パペルボン、バックホルツなどの投球フォームを見たのですが、やっぱりいいピッチャーは一度肩を下げている。メジャーの多くは、一見、上から下へ倒れるように覆いかぶさったようなフォームのように見えるのですが、注意して分析してみると有名なピッチャーはみんな一瞬(後ろ側の)肩を下げているんです。

また、日本プロ野球の伝説の投手・沢村栄治さんをはじめ、金田正一さん、堀内恒夫さん、藤田元司さんなどの投球写真を見てもやっぱり肩を落としたフォームになってるんですよね。

皆さん自然と体得されたフォームだと思いますが、共通していることは、一度肩を落とす。つまり、マウンドの傾斜を上手く利用して投球されているんですね。

明治・大正・昭和の時代は、ビデオ録画、映像分析も発達していなかったので、スローを使った細かい分析や実際の動きを確認できなかった。だから、多くの方々は自分の感覚で学んだ上から下に投げ下ろすイメージを子供たちにもそのまま教えてしまっているんだと思うんです。





編集長

各世代の監督さんは、自分が指導している期間内で結果を出すため、どうしても選手に無理をさせているケースがあるかもしれませんね。桑田さんの指導方法はどんなものでしょうか?。

桑田氏

僕はまず指導者として、子供たちや親御さんたちと目標を共有する必要があると考えています。

例えば「この子の目的は何か?」もちろん将来プロ野球選手になりたいのであれば、小学生の期間に壊れるような練習量やプレーをしてはいけない。

高校生といってもまだ成長期なので、甲子園だけを目標にしてそこで使い切ってしまってはいけない。それぐらい子供たちの将来を真剣に考え、信念を持って指導ができる指導者が増えてくれることを僕は祈っています。

どんな大会でも優勝したら嬉しいし、その時はいいですが、その子の将来を考えると無理をさせすぎている事が多々見受けられます。

子供たちは金の卵なので、大切に育てていかなければいけません。 あまやかすのと大切に育てるのは違うわけですが、大切に育てるということは、その時にやるべきことをきちんと適切な範囲と方法でやらせることだと思うのです。

僕も体力トレーニングを厳しく指導することがあります。 しかし、それはきちんと時間を計り、あくまで無理のない範囲で挑戦させるよう指導しています。 例えば、15秒のサーキットトレーニングを行う際、15秒と言うと一見すごく短い時間のように思えますが、きちんと最後まで手を抜かずにやらせます。 簡単な筋力トレーニングなどでも、集中して手を抜かずにやると、たとえ15秒でもかなりきついトレーニングになります。しかし、短い練習でもしんどいから手を抜くことを覚えて、自分を甘やかす癖を付けてしまうような選手は試合では勝てません。短い時間だからこそ集中して全力を出し切ることが大切です。それを3年間コツコツやり続けることができるかで、最終的には大きく差が出てくると思います。

また、キャッチボールでもそうです。どのチームのキャッチボールを見ていても10分間、20分間キャッチボールをさせています。そうすると、どうしても球数が多くなるのでダラダラとなりがちです。僕の場合はキャッチボールの練習を30球しかさせません。しかし、30球だと最初の10球で肩慣らしをして、次の10球でしっかりと肩を作り、、最後にクイックスローが10球だと、1球でも無駄にできない。無駄なことをせず、常に集中して真剣にやろうとすることで野球を上達させる意識を持たせることが大切だと思っています。

キャッチボール30球、内野ノック20球、外野で20球投げると合計70球は投げていることになり、それにシートノック、紅白戦まで含めると1日あたりグラウンドで約100球前後投げることになるわけです。それをこつこつ繰り返し、集中して短期間でやり切る練習、これが僕がやってきた指導方法です。

また、僕が教えているチームでは、野球だけでなく勉強についても目標を立てるように促し、家に帰ったらまず30分でも良いから勉強するように指導しています。

そして、遊びもちゃんとやるように言っています。何でもそうですが、やはりバランス、調和が大切だと思います。

勉強でも上を目指すことが大切だと思います。例えば現時点で50点しか取れていない子供でも、次のテストで52点を目指すように言っています。野球でも勉強でもいきなりトップクラスでなくても、自分のベストを尽くすことの大切さを教えたいと思って指導をしているんです。

まじめな子供であればあるほど、「勉強しろ」と言われると、トップクラスの成績じゃないといけないという錯覚に陥ります。そうではなく、自分が努力すること自体が大切なんだと教えていきたいと思っています。

編集長

桑田さんはバッターとしても素晴らしい結果を残されています。秘訣を教えてください。

桑田氏

僕はピッチャーだったのでバッティング練習はほとんどできませんでした。 ピッチャーは練習中、外野でランニングをすることが多かったのですが、ただ走るだけでなく野手が練習いしてるバッティング練習を見ながら走っているときに気づいたんです。当たり前の話ですが、バッティングマシンやピッチャーの球を見ていると、基本的にボールは上から下に軌道を描きます。なのにみんな「上から叩け!」と指導される。走りながら感じていたのですが、バッティングは実はアッパーで打つ方が当たる確率が高くなるのではないか?と思うようになり、練習で試してみるとそれまでより打てるようになったんです。そういった体験もあり、常識を疑うことの大切を感じました。

例えば、バットを構えると芯は誰でも頭より高いところにありますよね。 そこからスイングしようとすると勝手にダウンスイングになる。 そして、さらにそこから振りぬこうとすると自然とヘッドが高い位置にいくのでアッパーの形になる。

つまり、1つのスイング中に普通はダウン、レベル、アッパーで抜けていくスイングの形になるわけです。このスイングは、小久保選手などがV字打法と言ったりしていますが、僕はこの考え方が大切だと思っています。 名バッターと言われる選手のビデオを見ても、やっぱりダウン、レベル、アッパーとなっているわけです。実際の動きとイメージを客観的に見比べて、先入観を捨て、きちんと動きを分析することが大切だなんですね。

編集長

今でこそビデオやインターネットで容易にフォームをチェックできますが、いつからそのような分析をはじめられたのですか?

桑田氏

中学生あたりからです。中京の野中(徹博)さん、Y高の三浦(将明)さん、早稲田実業の荒木(大輔)さん、池田の畠山(準)さん、報徳の金村(義明)さん、名電の工藤(公康)さんなど、数々の名プレーヤーが高校野球の雑誌に掲載されてたので、それをずっと見続けてました。ここで肩が落ちているなとか、この時点でバットの先は上を向いているなとか、自分なりに分析していました。

編集長

そうして自ら研究して野球を上達させていった桑田さんですが、アメリカに行きました。そこで体感したベースボール。パイレーツに行かれた時、桑田さんが考えてこられた野球に対する取り組み(練習)と比較して、新たに学んだこと、驚いたことはどんなことですか?

桑田氏

パイレーツでプレーしたメジャーでの2年間は、自分の野球理論を再確認するよい機会でした。 まず、キャンプでびっくりしたのは、メジャーは球場が4つあり、15分ごとにバント、フィールディング、バッティング、ランニングなどローテーションで回していくのですが、これは僕自身がジャイアンツでも取り入れ、少年野球の指導でもやっている練習方法とほぼ同じやり方でした。 当時、メジャーリーグはあまり練習しないという変な先入観を持っている人が多かったのですが、実際はそうではなく、数値をベースとした合理的なトレーニングを行っていました。そのメジャーの練習メニューと一緒であることを知った訳ですから、すごく自信にも繋がりました。

逆にメジャーを知ったことで、ある意味ショックを受けたこともありました。それは、パワーとスピードが想像を超えていたということです。日本人がどんなに頑張っても、かなわない世界があるんだなと思いましたね。メジャーのチームは、1人か2人はズバ抜けている選手がいます。身長が2メール近い選手でも、俊敏性や柔軟性があり、器用なプレーもできる。そんな選手は日本人選手には少ないですよね。大きくてもスピードが比例しているあの身体能力の高さは、やはり日本人にはない特性だと感じました。

ただし、だからあきらめるということではなく、日本人は総合力で戦うと言うことの大切さを再認識した瞬間でもありました。スピードで劣っている分、コントロールと配球、守備やメンタルを含めた総合力、個人力で劣ってしまうのであればチームプレー、総合力で戦う。1試合でだめならシーズンを通した戦略を立てて戦うなど、そういった視点で相手を分析し、それを打開するための方法論を自分で考えることが重要なんだと感じたんです。






閲覧数:578回

Comments


アンカー 1
bottom of page